(春秋社, 2008)
ビルギット・ニルソンの自伝。今年和訳が発売された。
非常に面白くて、昨日一日かけて結局全部読んでしまった(笑)。
気軽に読むのにもぴったり。
訳者後書きにもあるけれど、
ニルソンの率直で飾らない物言いが人柄を偲ばせる。
同僚の悪口もなく、常に敬称と同等の言葉を付け、
不当に思う体験談は理由をきちんと添えてある。公正な態度。
個人的な葛藤などは極力省き、簡潔に語られているため、
行間に隠された事柄は少なくないだろう。
「タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格はない」
っていうチャンドラーの古いコピーがあるけど(笑)、
ニルソンにはちょうどいいかもしれない。
内容は興味深いことばかり。
彼女や同時代の歌手の録音はわりと聴いているので、演奏が想像しやすい。
いくつか疑問に思っていたことへの解答がある。
例を挙げると、
歌手に都合のよい指揮者と、良い音楽が作れる指揮者は違う
…当たり前すぎか(笑)。
ニルソンには申し訳ないが、私はベームのトリイゾは聴けなくなってしまったし、
カイルベルトのリングも面白味に欠ける。
ただ、両者とも実演のテンポやバランス面では歌手向きではあると思う(練習不足等で崩れる時は除いて)。
ショルティはマッチョで音符の長さや拍には厳格、
カラヤンの歌劇場を与えられてはしゃぐ子供のような振る舞いも想像つく。実演での抜け目のなさも。
レニーは歌劇場出身じゃない。ブーレーズのトリイゾのかっとばし演奏はいわずもがな。
…だからケンペの録音が返す返すも…(笑・以下略)
57年のコヴェントガーデンでは素晴らしかったと一言あったのはちょっと嬉しかった(笑)。60年のバイロイトのリングで彼が途方にくれていたようだった、とあるのは、ケンペの伝記でも読んだ気がする(うろ覚え)。
私が持っている60年バイロイト(GM盤)のワルキューレはヴァルナイがブリュンヒルデを歌っているので、第2ツィクルス以後の録音のようだ。ただ、このヴァルナイとハインズの3幕も素晴らしい。
ニルソンは「オムレツ・ア・ラ・ヴァルナイ」事件を面白く描いていたが、きっとヴァルナイの方も闘志が漲っていたのだろう。
指揮者の暗譜指揮への不安…これも、以前指揮者に関する本で読んだ記憶がある。ソリストとのセッションでは、たとえ指揮者が暗譜していてもスコアを持っていく方がソリストが安心する、という話。
ニルソンでもブラックアウトするなら、現代の歌手は即死して当然か(笑)。そしてプロンプターっていかにも寝そう。
その他、「ジークフリート」のブリュンヒルデは音域が高い
(今年のバイロイト、ワトソンがジークフリートで崩れてしまったのはやっぱりそれもあったか)とか、
イゾルデ役への並々ならぬ思い入れ(メジャーレーベルでの録音は嬉しそうだった)、
VPOのピッチの高さは相当なハードルになる(日本では通常442Hzだが、ドイツ語圏オケは445以上の場合も)ことなど、納得の行く話ばかり。
オペラ録音については、やはり歌手の立場からの意見だった。
デッカの録音についても公正な態度だったけれど、オケ中心バランスだと彼女も感じていたようだ。
個人的には、オペラである以上、歌が埋もれるのは私も嫌だ。
ただ、ワーグナーやR.シュトラウスのオケは無視できない。
バランスがいいのが一番だが、
オペラを聴かないクラオタにまで売るには指揮者のネームバリューは欠かせない。彼らの意向になっても仕方のないことなのかもしれない。
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